価値貫徹型の教授寺尾誠

今回はちょっと硬い本を取り上げる。

改定「社会科学概論」寺尾誠、慶應義塾大学出版会、1989年の初版を97年に改定新版として出版。

この本は、私が大学の時に師と仰いだ、寺尾誠教授の本で、我々が学生の時にはこの種のまとまった本は彼は書いていなかった。5年前に亡くなったのだが、一昨年大学で3周忌といったか追悼の会があった。その時にあとで書いてある,哲学者花崎こう平氏への手紙をまとめた「歴史哲学への誘い」という本をいただく。かなり分厚い本だ。そういうこともあり、一度しっかり寺尾さんの本を読むべきと思ってこの本を手にした。

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ユーゴスラビア空爆の悲劇

空爆下のユーゴスラビアで、-涙の下から問いかける、ペーター・ハントケ 訳元吉瑞枝

同学社2001年6月発行

以前書いたコソボ紛争の中でペーター・ハントケの名前が出ていたのでこの人の本を読んでみたい、と思った。(ブログ;コソボを知るにはこの本を読むしかない)

この本は、ユーゴスラビア(1999年当時の)へのNATOの空爆下に、作家であるペーター・ハントケが2回現地視察をした時のある意味悲しい記録である。言葉が言葉にならない。切れ切れだ。物語れないのか、名詞を羅列するようになっている。

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資本主義の終焉はどうなる

アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート著「帝国」ーグローバル化とマルチチュードの可能性、水嶋一憲他訳、以文社、2003年発行、約580ページ

(この本を一か月かかって一応読了した。読了したが、この本を読んでわかること分からないこと分かりにくいことなどあって、全部理解できたというつもりはないし、逆にわからなさが重要なのかとも思えてくる。その後、手にした「さらば”近代民主主義”政治概念のポスト近代革命、アントニオ・ネグリ著2008年、作品社、を読んでからのほうがよくわかる仕掛けである。)

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衰退する米国、勃興する中国

「北京のアダムスミス」(21世紀の諸系譜)ジョバンニ・アリギ著、作品社、2011年発行、(原著は2007年発行)673ページ(ページがふってある箇所だけで)

この本は、ネグリの大著、「帝国」をさらに上回る厚みである。

この本を読むのにやはいり一か月はかかった。長い本である。

著者のはじめ、にあるように前著「長い20世紀」と「近代世界システムにおけるカオスとガバナンス」に続く続編として書かれたものだ。

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アジアの中の沖縄、新しい視点

南海の王国琉球の世紀、東アジアの中の琉球、角川選書、平成5年(1993年)発行

(陳舜臣、森浩一、山折哲雄、濱下武志、高良倉吉、田中優子、井沢元彦)

この本の構成は、まずそれぞれの専門分野の部分を発表し、それをもとに、7人で議論をする。議論の方は2部構成で1、琉球王国の誕生と形成、2東アジアの中の琉球。

なぜこの本を読むのか

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台湾、慟哭の歴史

陳舜臣、神戸わがふるさと、講談社、2003年発行

第一部と第三部がエッセイとなり、真ん中が小説となっている構成である。

このエッセイの最初の文章が素晴らしい。なんという悲劇、なんという歴史。

「慟哭の世紀」という表題、よくよく見るとこれは序文であった。

ここに戦争後、台湾にも岩波書店のような立派な本屋を作るから戻って来いと言われた。本屋の仲間は5人いるという、君も来ないかといわれた。しかし婚約者がいるのですぐには帰れないと言って考えておくという事にした。

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世界の経済覇権がどのように推移したか

長い20世紀(資本、権力、そして現代の系譜)、ジョバンニ・アリギ著、作品社、2009年発売、原著は1994年発行、(1995年のアメリカ社会学会、世界システム政治経済部門賞受賞)、5200円

この本は約600ページの厚みのある本である。この本を読み始めてから約1か月半である。最初は図書館の本で済ませていたが何回も延長できず、ついにネットオークションで安く買うことを画策して、手に入れた。

評価の高い本である。

なかなか読み応えのある本である。内容は世界経済史である。単なる経済史ではなく、今後の資本主義の行方やアメリカの覇権的資本主義はどのように成立してきたのか、今後どうなるかなどという現代の問題意識を満載したような経済的歴史でありかつ理論化も狙っているのではと思われる。世界システム論の一つだ。ウォーラーステインなどと一緒に仕事をしたようだ。またこの本にしょっちゅう出てくるが地中海論で有名なブローデルの影響をかなり受けている方のようである。また「帝国」のネグリとは立場を違えているし、論争もしている。ネグリはこの本を批判もしている。

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神戸の中国人のミステリー

「枯草の根」陳舜臣、1961年発表、講談社

陳舜臣氏の初期の作品はこういうミステリーものだった。しかしすぐに歴史ものや紀行文学に移っていって、このミステリーものは数が少ない。

この本は江戸川乱歩賞受賞作品である。彼の37歳の時の作品である。

なぜこの作品を読むのか。

「アジアの中の沖縄」でも取り上げたが、中国人の視点、それに台湾、日本の神戸の視点が入り混じって、アジア的な視点を持つ人だと思ったからだ。この人ほど、歴史の中のアジア、現代のアジアのことを感じて生きた人はいないのではないか。

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資本主義のゆくへ

「北京のアダムスミス」(21世紀の諸系譜)続

ジョヴァンニ・アリギ著、2011年発行(翻訳)作品社

この本には付録があり、

1、資本の曲がりくねった道、デヴィット・ハーヴェイによるアリギへのインタビュー

2、資本主義から市場社会へ、北京のアダム・スミスに寄せて、山下範久氏の論文があり二つ合わせても80ページ近い分量である。

(図書館から借りていた時点ではそこまで読む時間はなかったが、ヤッフーネットオークションで安く手に入ったため、ここまで一応紹介しておこうと思う。)

分かりやすいインタビューと解説論文

この北京のアダムスミスという本はアリギの遺作となった本ではあるが、「長い20世紀」という本と併せて読む必要のあるものである。しかしいずれにせよ長すぎるのがこの本の短所ではあるがここにあるインタビュウーと山下氏の論文は分かりやすく整理されており、本編を一読して何を言っているのかわからないところも、ある程度理解可能となる解説的役割を果たしている。

コロナウイルスがどの程度の規模で終息するのか分からないが、こういう不安をあおるような不確実な未来、将来については現実の科学的分析がいかに必要かという事を感じさせる。

インタビュウの方では、それぞれの覇権的資本主義がいかに遷移していくのか、その理由は市場の物的拡大によって発展していくが、利益率の縮小という問題を資本蓄積のサイクルの中で必ず起こってくる。その問題をクリアーしようとすると、資本主義は金融に走る。これが資本主義的覇権の末期となり次の覇権的空間に遷移していく。そういうことが歴史的にジェノヴァ、オランダ、イギリス、アメリカこの次は東アジアまたは中国というように考えられている。おんなじことを繰り返しているわけでもなく、拡大し変化しながら転移する。

資本主義は終わるのかの議論

さらに山下氏の解説によると、現代マルクス主義者のネグリの理論は、「帝国」にあるように資本主義の終末論的現代というようにとらえている。それはマルチチュード(昔のプロレタリアートではない、グローバルな群衆的なもの)が政治的に革命を起こすべき時であり起きる時代である、というような可能性を示唆し、ある意味資本主義の終わりの始まりというようにとらえるのに対して、ネグリの理論は、資本主義のシステムをいろいろ変更しながらも拡大して遷移する史的な資本主義として生き残り続けるという考え方である。資本主義の危機はあるが、それは危機でしかないという事だ。市場社会の発展はアダムスミス的理解、資本の蓄積サイクルはマルクス的理解を可能とするという。

穏当な世界史の見方

しかし、非常に単線的に資本主義をとらえた資本論的マルクス主義に対して、ここにはマルクスの理論に関する内在的批判があるように見える。

また、ある意味では、過激な理論ではなく案外収まるところに収まったグローバル経済史的なものの見方といえるのではないか。(大向こうを張ったウオーラーステインや、ポメランツの世界システム論からすれば非常に穏当ででわかりやすい、といえる。)

ソ連崩壊後の左翼思想、アリギ

「新世界秩序批判」(帝国とマルチチュードをめぐる対話)

ジョバンニ・アリギ、マイケル・ハート、アントニオ・ネグリ等、以文社、2004年発行

誤読

この本は、ネグリの「帝国」という大著に関してのそれぞれの批判や反批判という本である。特に、ジョバンニ・アリギの「長い20世紀」をネグリが批判していることに関して、アリギが反批判しているのが面白い。それぞれの読解力が問題にもなるだろうが、案外批判する人はその当該の本を真剣には読んでいないことが多い。という事で誤読だらけでネグリはアリギを批判したことになる。そのことをいちいち丁寧にアリギは書いてあるので、ある意味、ネグリのような大家でも簡単に誤読して思い込むという事があるので我々が誤読するのは当たり前と考えるべきだろう。

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