以下の写真にある本を読んだわけではないが、ざっと見ただけで感じるものがある。彼の字体である。彼は書と言っている。
この井上有一を知ったのは朝日新聞で土曜日サザエさんの漫画に描かれてあることからから実際の現実や世相は何だったかと解説してくれる欄がある。「サザエさんを探して」

この時に井上有一が出てきた。サザエさんの漫画では着物をひっからげて痩せた体に自分より太い筆をもって字を書いている親父を滑稽に描いていた。それが井上有一かはわからないが朝日はそこから井上有一の説明をしている。何となくその説明に興味を持ったので図書館で借りてみた。フランスでは国際的な展示会など開いて世界的に有名らしい。書いてある文章も妙に面白い。文章を書く人ではない、というのはほんのちょっと読めばわかる。しかし後味は非常にいいのである。
それで彼の書を色々見た。展示会ではなくこの本の写真だ。今まで何度も自分の字は嫌いだった。しっかりしていない、自己主張もない、万年筆か何かを使って日記を書いたりしていたが、それでもなんというか全く自分の書いた文字は好きになれなかった。何となくだらしなく、うまくもなく、下手なのにうまく見せようとするいやらしさ、が出ているような字である。まさにだから下手なのである。しかしこの井上の書を見てひとつ悟った。彼の字をよく見ると、力がこもっている。力がこもっているように見える。押し付けたような力を感じる。これだと思った。自分で納得できないのは、字に力がないのである。力感がない。ここが唯一、納得がいかないし、自己満足のない、いやらしい字の正体だったのだ。そこで姿勢を正して、鉛筆でも万年筆でもボールペンでもいい重心をこのペン先にかけるのである。だからやや前のめりになって書くのである。思っていた通りである。力がペン先にあふれて来る。これだ、これだと感じる。これだと下手は下手なりでいい。満足感が違う。自分は自分らしい字が書けたという満足感が圧倒してきた。

今までの自分は何だったのかキチンと体重をかけて書けばかけるんだ。下手は下手でいい。しかし圧倒する自己満足感がある。達成感がある。自分らしさを感じる。自分だと思える。こんなに楽しいことがあるかと思った。書くことが本当に楽しくなった。なんでもたくさん書きたくなった。たったこれだけのことだ。体重をかける。重くペン先に乗る。体重の乗った自分らしい字が書けた。
この井上から強い衝撃を受けたが、書家になるわけでもなく自分の字に満足感が得らればいいのである。革命的な変化である。字というものの持つ力を感じた。